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フランス近世史・革命史・フリーメイソン史研究に関するブログです。新刊情報などをまとめています。

【紹介】井上「フランス革命とフランスの政治的伝統」

井上すず「フランス革命とフランスの政治的伝統-中間団体廃止をめぐって-」『年報政治学』41巻、1990年、43-60頁。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nenpouseijigaku1953/41/0/41_0_43/_article/-char/ja/

フランス革命200周年に際してフランスの『ル・モンド』紙が発行した『フランス革命の世界Le monde de la révolution française』「結社」特集号 に掲載されていた諸論文から示唆を得て、執筆された論考である。
「ル・シャプリエ法」は同業組合を廃止し、労働者の団結を禁じた法律であり、1884年に廃止されるまで存続したことはよく知られている。その提案者であるル・シャプリエは、同業組合のみならず、政治団体を含めてあらゆる中間団体を禁止しようとしており、19世紀の結社規制の基礎となる1810年の刑法291条を理論的に準備した人物であるとも言える。
 こうした中間団体敵視は、国家と市民社会の疎隔、政党機能の脆弱さ、圧力団体の蔑視に示されるように、近代フランスの政治文化に刻印されているが、P・ロザンヴァロンが指摘したように、絶対王政期の統治様式に特徴的な一般利益観に遡るものである。それゆえ、中間団体・社会と国家を関連付ける様式に着目することで、旧体制期から現代に至るまで一貫したフランスの政治文化という問題を提起することができるのである。
 まず、最初に、絶対王政の統治構造における中間団体の位置づけを明らかにするために、伝統的な政治的コミュニケーションの構造と回路が概観された後に、旧体制末期に新たなコミュニケーションの経路となった自発的結社(民主的ソシアビリテ)の出現と革命への過程が論じられる。続いて、革命期の法テクスト、ル・シャプリエの法律提案演説を分析することで、中間団体廃止の論理が導出される。最後に、革命期の反結社立法の19世紀の結社規制への影響が簡潔に描き出される。

目次
一 絶対王政の統治構造における中間団体
 1 絶対王政の統治構造 ―「伝統的コミュニケーション回路」―
 2 新しいコミュニケーション回路の出現 ― 民主的ソシャビリテ ―
 3 伝統的コミュニケーションの回路の再活性化と革命の勃発

二 フランス革命における中間団体の廃止
 1 人権宣言と一七九一憲法
 2 ル・シャプリエの場合 ― 三つの法律案 ―
 3 ル・シャプリエ提案後の中間団体
三 フランス革命後の中間団体
 1 若干の職業団体の復活
 2 非営利団体・結社の規制


関連論文
二宮宏之「フランス絶対王政の統治構造」(吉岡昭彦他『近代国家形成の諸問題』木鐸社、1979年)
高村学人「フランス革命期における反結社法の社会像--ル・シャプリエによる諸立法を中心に」 『早稲田法学会誌』 (48), 1998年、105-160頁 http://ci.nii.ac.jp/naid/120000792349