Il faut cultiver notre jardin

近世フランス史・フリーメイソン史研究に関するブログです。新刊情報などをまとめています。

ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』について(2)

前回の記事に引き続き、ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』(三和書籍、2016年)の訳について気付いた点をまとめておきます。今回は、第三章の冒頭、1723年にロンドンで印刷公表された『フリーメイソン憲章』(いわゆるアンダーソン憲章)に収められた「フリーメイソンの義務」の各条文のタイトルの訳について問題点を指摘したいと思います。

第3章44頁左段「2. 市民的支配機関、最高責任者、部下について」

ドイツ語ではなく『憲章』の原文にあたっていただければ、「市民的支配機関」という一読して分かりにくい訳を採用せずに済んだのではないかと思います。英語では「Of the CIVIL MAGISTR ATE supreme and subordinat」であり、この条文の内容は、メイソンと統治権力・その代理人との関係を規定し、フリーメイソン団の政治的中立の原則を確認したものです。深沢克己先生は、2006年に出版された論文集のなかで「上級および下級の統治者について」と訳しておられます。条文の内容とその解釈についてはそちらに譲り、ここでは冒頭だけ引用しておきます。

二、上級および下級の統治者について 
メイソンはどこに居住しどこで作業しようとも、統治権力に服する平和的臣民であり、国民の平安と福祉に対する陰謀や謀議に決して関与すべきではなく、下級行政官に対しても不従順にふるまうべきではない。[以下略]*1

第3章44頁左段「5. 仕事におけるツンフトの統治」

こちらも同様に、英語の原文を参照していただければ良かったのではないかと思われます。英語では「Of the MANAGEMENT of the CRAFT in WORKING」です。この条文では、メイソンの「作業」を指導・監督するロッジ長の選出、ロッジ内外でのメイソンの義務や行動規範、会員資格について論じられていますので、「作業中の職人(メイソン)の管理」ぐらいに訳すと良いのではないでしょうか。

ちなみに、1723年にロンドン・グランド・ロッジによって公表された『フリーメイソン憲章』は、1734年にフィラデフィアでベンジャミン・フランクリンによっても出版されており、ネブラスカ=リンカーン大学のデジタルコモンズにて電子化され公開されています*2

*1:深沢克己「一八世紀フランスのフリーメイソンと寛容思想」深沢克己・高山博編『信仰と他者 寛容と不寛容のヨーロッパ宗教社会史』東大出版会、2006年、230-231頁。

*2:http://digitalcommons.unl.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1028&context=libraryscience