Il faut cultiver notre jardin

近世フランス史・フリーメイソン史研究に関するブログです。新刊情報などをまとめています。

ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』について(4)

今回は、ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』第4章の冒頭、74頁左段『旧き義務」第二条の訳について、問題点が多いと思われるため、私なりに訳し直してみたいと思います。なお、ラインアルターは、本書で一貫して1723年の『旧き義務』(中世石工の規範文書Old Chargesは『古来の義務』とも訳されます)と記していますが、正確には1723年に出版された『アンダーソン憲章』に収められた『フリーメイソンの義務』です。アンダーソンは収集した『古来の義務』にもとづいてこの『義務』を作成したと主張していますが。
第二条「上級・下級の統治者について(II. Of the CIVIL MAGISTRATE supreme and subordinate)」について、訳者による訳文は、以下になります。

フリーメイソンは自らが住み働いている場所の市民権力の忠実な臣民であり、市民の平和と安寧に対する謀反や陰謀にかかわってはならないし、支配当局の命に反する行動をおこなってはならない。というのは戦争や流血事件、不穏はフリーメイソンにとっては常に不利に作用するからである。つまり古来より国王や領主たちは、キルド成員の静穏と市民的忠実を奨励し、敵対者の苦言に対処し、同胞愛の栄誉を促進しようとしているからである。そしてそれは平和時に栄えるからである。

『フリーメイソンの義務』の英語原文では、以下のように記されています。

A Mason is a peaceable Subject to the Civil Powers, wherever he resides or works, and is never to be concern’d in Plots and Conspiracies against the Peace and Welfare of the Nation, nor to behave himself undutiful to inferior Magistrates
; for as Masonry hath been always injured by War, Bloodshed, and Confusion, so ancient Kings and Princes have been much dispos’d to encourage the Craftsmen, because of their Peaceableness and Loyalty, whereby they practically answer’d the Cavils of their Adversaries, and promoted the Honour of the Fraternity, who ever flourish’d in Times of Peace.

私が訳すならば、つぎのようになります。

メイソンはどこに居住しどこで作業しようとも、統治権力に服する平和的臣民であり、国民の平穏と福祉に対する陰謀や謀議に決して関与すべきではなく、下級行政官に対しても不従順にふるまうべきではない。というのも、メイソン団はつねに戦争、流血、混乱に害されてきたからであり、また、古来、諸王と諸侯は、職人[メイソン]たちを彼らの平穏さと忠誠ゆえに奨励しようとしてきたためである。彼ら[メイソンたち]は、これ[平穏さと忠誠]によって、彼らの敵対者によるあら探しに実質的に応答し、つねに平和な時代に栄えた友愛団の名誉を高めてきたのである*1

急ぎで訳しましたので、何かご指摘などがございましたら、よろしくお願いします。

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*1:1文目のみ、深沢克己先生による訳を採用しました。深沢克己「一八世紀フランスのフリーメイソンと寛容思想」深沢克己・高山博編『信仰と他者 寛容と不寛容のヨーロッパ宗教社会史』東大出版会、2006年、230頁。

ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』について(3)

引き続き、ヘルムート・ラインアルター(増谷英樹・上村敏郎訳)『フリーメイソンの歴史と思想:「陰謀論」批判の本格的研究』(三和書籍、2016年)について気になった点をまとめます。今回は第4章です。

第4章
  • 74頁左段『旧き義務」第二条。ラインアルターは、本書で一貫して1723年の『旧き義務』と書いていますが、正確には1723年の『アンダーソン憲章』の「フリーメイソンの義務」のことだと思われます。本章冒頭の第二条の訳に問題がありますので、後ほど改めて記事を書くつもりです*1
  • 74頁左段(下から二行目)、文脈的には「絶対主義的貴族」では意味が通じないので、「啓蒙主義的」貴族でしょうか。
  • 77頁左段、下から二行目 「第三大親方」。デザギュリエは、ロンドン・グランドロッジの三代目グランドマスターであったと言われていますが、近年、英国の研究者には疑問視されているみたいです。
  • 77頁右段、「長老派司祭」→「長老派牧師」。
  • 77頁右段「アンドリュー・ミッシェル・ラムジー」→「アンドルー・マイケル・ラムジー」。正確には彼は「講演者」ではなく、パリ・グランドロッジの「大弁士grand orateur」という役職でした。ラムジーが「ある一般百科全書におけるフリーメイソンの項目に協力参加した」かどうかは、ちょっと事実を確認してみたいと思います。
  • 79頁左段、三行目、「新姉妹」→深沢先生も『史潮』での書評で指摘していたと思いますが、フランス語では「Neuf Sœurs」で、直訳すれば、「九姉妹」ですね。深沢克己先生は「九詩神」と訳されています。
  • 83頁右段、「デザグーリエ」→「デザギュリエ」、「ロジェ」→「ロッジ」。
  • 84頁左段、7行目、「市民法」→教会法に対する「世俗法」と訳すべきです。
  • 84頁左段、「1782年のウィルヘルムスバードの修道会会議」→本書の他の箇所では「国際会議」などと訳されていました。深沢克己先生は、メイソンの「大会」と訳されています。ちなみに、フランス語ではconventで、修道院couventと似ているので注意が必要です。
  • 84頁右段(Michael Dierickx, Freimaurereiのrが抜けています。

眠いので今回は85頁までです。

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[新刊]2018年1-2月

  • ピエール・ブルデュー、ロジェ・シャルチエ『社会学の擁護:社会学者と歴史学者の対話』藤原書店、2018年1月。
  • 住田博子『カルヴァン政治思想の形成と展開:自由の共同体から抵抗権へ』新教出版社、2018年1月25日。
  • 永見瑞木『コンドルセと〈光〉の世紀:科学から政治へ』白水社、2018年1月下旬。
  • 長谷川まゆ帆『近世フランスの法と身体:教区の女たちが産婆を選ぶ』東京大学出版会、2018年2月20日。

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ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』について(2)

前回の記事に引き続き、ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』(三和書籍、2016年)の訳について気付いた点をまとめておきます。今回は、第三章の冒頭、1723年にロンドンで印刷公表された『フリーメイソン憲章』(いわゆるアンダーソン憲章)に収められた「フリーメイソンの義務」の各条文のタイトルの訳について問題点を指摘したいと思います。

第3章44頁左段「2. 市民的支配機関、最高責任者、部下について」

ドイツ語ではなく『憲章』の原文にあたっていただければ、「市民的支配機関」という一読して分かりにくい訳を採用せずに済んだのではないかと思います。英語では「Of the CIVIL MAGISTR ATE supreme and subordinat」であり、この条文の内容は、メイソンと統治権力・その代理人との関係を規定し、フリーメイソン団の政治的中立の原則を確認したものです。深沢克己先生は、2006年に出版された論文集のなかで「上級および下級の統治者について」と訳しておられます。条文の内容とその解釈についてはそちらに譲り、ここでは冒頭だけ引用しておきます。

二、上級および下級の統治者について 
メイソンはどこに居住しどこで作業しようとも、統治権力に服する平和的臣民であり、国民の平安と福祉に対する陰謀や謀議に決して関与すべきではなく、下級行政官に対しても不従順にふるまうべきではない。[以下略]*1

第3章44頁左段「5. 仕事におけるツンフトの統治」

こちらも同様に、英語の原文を参照していただければ良かったのではないかと思われます。英語では「Of the MANAGEMENT of the CRAFT in WORKING」です。この条文では、メイソンの「作業」を指導・監督するロッジ長の選出、ロッジ内外でのメイソンの義務や行動規範、会員資格について論じられていますので、「作業中の職人(メイソン)の管理」ぐらいに訳すと良いのではないでしょうか。

ちなみに、1723年にロンドン・グランド・ロッジによって公表された『フリーメイソン憲章』は、1734年にフィラデフィアでベンジャミン・フランクリンによっても出版されており、ネブラスカ=リンカーン大学のデジタルコモンズにて電子化され公開されています*2

*1:深沢克己「一八世紀フランスのフリーメイソンと寛容思想」深沢克己・高山博編『信仰と他者 寛容と不寛容のヨーロッパ宗教社会史』東大出版会、2006年、230-231頁。

*2:http://digitalcommons.unl.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1028&context=libraryscience

ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』について(1)

遅ればせながら、ヘルムート・ラインアルター(増谷英樹・上村敏郎訳)『フリーメイソンの歴史と思想:「陰謀論」批判の本格的研究』(三和書籍、2016年)を落手し、読み進めています。インスブルック大学の元教授で、ドイツ語圏フリーメイソン研究の大家である著者の手による概説です。入門書とはいえ、かなり難解な本ですので、深沢克己氏による諸論文などと一緒に、読まれるとよいのではないかと思います*1。ここでは、読んでいて気になった誤字脱字や用語の表記について、備忘録代わりにまとめておきます。ひとまず、第二章までです。本来であれば、ドイツ語の原文を参照してからブログ記事として公表すべきところですが、ご容赦ください。2016年5月に出版された第一版第一刷を元にしています。

序文
  • 2頁の訳者註解(1)に登場する「ロジェ」は、ドイツ語表記のままですので、凡例(iv頁)に従って「ロッジ」という表記に統一すべきと思われます。
第一章
  • 4頁右段「ピタゴラス派同盟」は、「ピタゴラス教団」が一般的でしょうか。
  • 6頁左段(下から五行目)、Die Entwicklung der Freimaurereiのrが抜けています。この文献の出版年も記してほしかったです。
  • 6頁右段「大組合長」は、原著の記述を確認しておりませんが、凡例(iv頁)に従って「大親方」と統一すべきでしょうか。
  • 8頁右段「デザグリュエ」は、「デザギュリエ」ですね。
  • 8頁右段「シュヴァリエ・ドゥ・ラムジー」は、『百科全書』の執筆者としてよく知られる「ジョクール騎士」と同様に、「ラムジー騎士」と記すべきではないでしょうか。9頁左段(二行目)の「シュヴァリエ」は、名字のように読めてしまいますので、「騎士」とするか、分かりやすく「ラムジー」としてしまってもいいかもしれません。
  • 10頁右段(3-4行目)の「聖マルティネス的リヨンシステム」は、訳の難しい箇所ではありますが、ルイ・クロード・ド・サンマルタンはキリスト教の聖人ではありませんので、「聖」と漢字にすべきではないと思います。「サンマルタン的」あたりが妥当でしょうか。ちなみ、リヨンの絹織物商Jean-Baptiste Willermozによるメイソン改革運動の位階・儀礼・組織構成の総体を指していると思われます。この商人については、深沢克己先生が論文で紹介されていますね。
  • 13頁「フランス革命とフリーメイソン」解説文中5行目にある「1779年のバルエルの著作」は、「1797年のバリュエルの著作」ですね。86頁右段では正確に表記されています。
  • 16頁右段、「1799年のフランスの『大東社』の設立と古式公認スコットランド儀礼の短期間の取り入れは、フリーメイソンの活動の政治とのかかわりや政治家たちとの結びつきを急速に制限した」という一文についてですが、本書で「フランスの大東社」と訳されているフランスのフリーメイソン統轄団体le Grand Orient de Franceの設立は1773年ですが、ここの段落は19世紀に関する記述にあてられていますので、年号が間違っているのでしょうか。また、31頁左段等にも登場する「古式公認スコットランド儀礼」ですが、深沢克己先生は、「古式受容スコットランド儀礼」と訳しておられますね。
  • 16頁右段(最終行)のドイツ語文献Dieter A. Binder, Die Freimaurerのrが抜けています。また、Dieter A. Binderには、Die Freimaurerというタイトルの著作が複数存在するみたいですので、副題か出版年を記してもらえるとありがたかったです。
第二章
  • 38頁左段二行目や42頁訳者註解(6)の「コンタ・ヴェネッサン」は、「ブナスク伯領」という訳語が一般的かと思われます。

12月20日追記。続きです。
ラインアルター『フリーメイソンの歴史と思想』について(2) - Il faut cultiver notre jardin

[新刊]2017年11-12月

  • R. C. アレン(眞嶋史叙・中野忠・安元稔・湯沢威訳)『世界史のなかの産業革命 資源・人的資本・グローバル経済』名古屋大学出版会、2017年12月。
  • ドリンダ・ウートラム(田中秀夫、逸見修二、吉岡亮訳)『啓蒙』法政大学出版局、2017年11月予定。
  • アントワーヌ・ド・クルタン(増田都希訳)『クルタンの礼儀作法書――十七、十八世紀フランス 紳士淑女の社交術』作品社、2017年12月23日。
  • ベルンハルト・シンメルペニッヒ(甚野尚志、成川岳大、小林亜沙美訳)『ローマ教皇庁の歴史 古代からルネサンスまで』刀水書房、2017年11月10日予定。
  • スピノザ(佐藤一郎訳)『知性改善論・短論文』みすず書房、2017年11月15日予定。
  • アリステア・ホーン(大久保庸子訳)『ナポレオン時代』中公新書、2017年12月。
  • エリック・ホブズボーム(水田洋監訳)『いかに世界を変革するか マルクスとマルクス主義の200年』作品社、2017年10月31日。
  • サム・ワインバーグ (渡部竜也監訳)『歴史的思考 その不自然な行為』春風社、2017年10月。
  • 小澤実編『近代日本の偽史言説 歴史語りのインテレクチュアル・ヒストリー』勉誠出版、2017年11月。
  • 加藤聡「科学事典の誕生と編纂 ジョン・ハリス『レクシコン・テクニクム』(1704年)と王立協会をめぐって」『思想』(1123)、2017年11月号、78-95頁。
  • 佐藤彰一『剣と清貧のヨーロッパ 中世の騎士修道会と托鉢修道会』中公新書、2017年12月。
  • 関根浩子『サクロ・モンテの起源 西欧におけるエルサレム模造の展開』勉成出版、2017年11月。
  • 高橋進・村上義和編著『イタリアの歴史を知るための50章』明石書店、2017年12月。
  • 仲松優子『アンシアン・レジーム期フランスの権力秩序 蜂起をめぐる地域社会と王権』有志舎、2017年12月25日。
  • 羽田正(編)『グローバル・ヒストリーの可能性』山川出版社、2017年11月。
  • 福井憲彦編『対立する国家と学問 危機に立ち向かう人文社会科学』勉誠出版、2017年。
  • 渡邉泉『会計学の誕生――複式簿記が変えた世界』岩波新書、2017年11月。
  • 渡辺和行『ドゴールと自由フランス 主権回復のレジスタンス』昭和堂、2017年12月27日予定。
  • 山本芳久『トマス・アクィナス 理性と神秘』岩波新書、2017年12月20日予定。
  • 山中仁美『戦間期国際政治とE.H.カー』岩波書店、2017年11月17日。
  • 『『百科全書』・啓蒙研究論集』第4号、2017年12月。

[新刊]2017年9-10月

  • 池田亮「書評 平野千果子『フランス植民地主義と歴史認識』」『歴史学研究』961、2017年、50-54頁。
  • ノルベルト・エリアス(大平章訳)『エリアス回想録 (叢書・ウニベルシタス) 』法政大学出版局、2017年。
  • 小田英『宗教改革と大航海時代におけるキリスト教共同体 フランシスコ・スアレスの政治思想』文生書院、2017年。
  • 踊共二編著『記憶と忘却のドイツ宗教改革 語りなおす歴史 1517-2017』ミネルヴァ書房、2017年10月予定。
  • H.A.オーバーマン『二つの宗教改革 ルターとカルヴァン』教文館、2017年。
  • ユーグ・ドシー(和田光司訳)「フランス王国におけるエリートと宗教改革:一五五〇年-一五七〇年」『思想』1122、2017年、63-83頁。
  • クリストファー・ベリー(田中秀夫訳)『スコットランド啓蒙における商業社会の理念』、ミネルヴァ書房、2017年9月。
  • ヘイドン・ホワイト(岩崎稔監訳)『メタヒストリー 一九世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力』作品社、2017年9月30日予定。
  • 伊達聖伸「書評と紹介 菅野賢治著『フランス・ユダヤの歴史』(上・下)上 : 古代からドレフェス事件まで 下 : 二〇世紀から今日まで」『宗教研究』91(2)、2017年、504-515頁。
  • 山崎耕一「フランス革命史の現在」『歴史評論』2017年、810号、68-76頁。
  • 山﨑耕一「(書評)服部春彦著『文化財の併合 : フランス革命とナポレオン』」『社会経済史学』83(2)、2017年、308-310頁。
  • 『思想』2017年10月号「特集 宗教改革500年 社会史の視点から」
  • 桃木至朗監修/藤村泰夫・岩下哲典編『地域から考える世界史 日本と世界を結ぶ』勉誠出版、2017年。
  • 松田隆美『煉獄と地獄 ヨーロッパの中世文学と一般信徒の死生観』ぷねうま舎、2017年10月。